初心者向け家系図作成体験学習ツール

 日本遺伝カウンセリング学会遺伝看護委員会は、遺伝医療の基本となる「家系図作成」に関する初心者向け体験学習ツールを作成しました。個人学習の他に、保健医療福祉の養成校の授業教材として、診療チームの学習会の資料としてもご活用いただけます。
 なお、本ツールの著作権は日本遺伝カウンセリング学会に帰属します。無断転用と営利目的への流用はご遠慮ください。

概要

家族歴や家系図は、診断の確定やリスク評価、医学的管理に用います。家系図作成はクライエントやご家族の協力を得ながら進めることから、この過程において、クライエントや家族へのケアや、リスクコミュニケーション、意思決定支援等が行われます。
ここではまず、家系図作成のために必要な遺伝医学と、家系図作成の基礎知識を学びます。続いて様々な事例を通じて家系図作成のプロセスを学びます。

目的

1.家族歴聴取の留意点やコツを理解できる。
2.家系図を適切に書くことができる。
3.家系図から当事者および血縁者の遺伝的状態を推測することができる。
講義 A.家系図を作成するために必要な基礎知識
視聴時間

37分41秒

学ぶ内容

1. 遺伝子、DNA、染色体
2. 遺伝情報の特性と近親度
3. 遺伝性疾患
4. 遺伝形式(不完全浸透、多様な症状)
5. 家族歴聴取、遺伝性疾患の可能性を疑う家族歴
6. 家系図と作成の目的(医療的側面、心理社会的側面)
7. 家系図作成の決まりごと(記号と線)
8. 家系図の評価

更新日:2025/3/1 担当者:渡邊淳
講義 B.家系図を聴くときの留意点:家系情報を聴いてみよう、家系図を描いてみよう

視聴時間

34分08秒

学ぶ内容

1. 聴取する前の確認事項 ① 相手は誰か(相手がおかれた状況はどうか、など。)
② 聴取する目的は何か
③ どのような場所で行うか
④ いつ聴取するか
⑤ どのように聴取するか

2. 目的に応じた聴取すべき内容 ① 診断時の年齢、診断の根拠(臨床検査、診察、など)
② 家族の遺伝性疾患に関わる症状について他の家族の有無
③ 死亡時年齢、死亡理由
④ 流産、死産、新生児期あるいは乳児期などに死亡した人の有無
⑤ 近親婚の有無
⑥ 父方母方の双方の家族歴

3. 家系図患者を聴取する際の配慮 ① 患者(対象)への家系図作成の説明
② 患者(対象)にわかる言葉や用語の選択
③ 配慮が必要な患者(対象)への聴取(声掛け、態度)
④ 聴取にかける時間

4. 家系図から見えてくる患者(対象)へのアプローチ

更新日:2025/3/1 担当者:佐藤智佳
   
事例1.遺伝性大腸癌と診断された兄に勧められ、大腸癌検診に訪れた男性への問診場面

事例は43歳男性。事例の兄が遺伝性腫瘍と診断された。兄から検査を勧められ、健康な姉が遺伝学的検査を受けたところ、未発症変異保有者であることが判明した。事例は、先ず大腸内視鏡検査を受けようと近医を受診した。

視聴時間

23分44秒

この事例の学びの目標

・遺伝性腫瘍の特徴(若年発症、複数回のがん発症、特定の種類のがんが家系内に多発 等)をふまえた既往歴・家族歴聴取のポイントや留意点を理解できる。

更新日:2025/3/1 担当者:村上裕美 中込さと子 酒井規夫
事例2.不安を抱える妊娠初期の妊婦面談の場面

事例は妊娠6週の経産婦。妊婦は2回の流産歴がある。助産師が、妊娠初期の注意点を伝える場面で、妊婦から「流産するんじゃないかと心配だ。高齢出産であり、出生前検査が必要か」と相談された。

視聴時間

32分41秒

この事例の学びの目標

・妊娠初期対応につながる家族歴聴取のポイントや留意点を理解できる。

更新日:2025/3/1 担当者:佐々木規子 玉置知子 酒井規夫 柊中智恵子
事例3. NICU入院中の先天異常症を疑う児の両親への問診の場面

事例は34週に破水し、緊急帝王切開で女児を分娩した。児は、筋緊張が弱く、呼吸状態不良であったため、NICUに搬送された。医師からは、児の先天異常症を疑い、確定診断のため遺伝学的検査を考えている。これに続き、看護師から、既往歴、家族歴等の問診を行う。

視聴時間

41分08秒

この事例の学びの目標

・妊娠経過、家族歴等には、両親の遺伝的状態の評価や児の診断につながる情報が含まれることがあり、両親への問診の際に聞くべき情報のポイントや留意点を理解できる。

更新日:2025/3/1 担当者:佐藤智佳 佐々木規子 玉置知子 中込さと子 御手洗幸子
事例4.腎不全と糖尿病の家系の男性がふらっと保健センターの窓口に現れた場面

事例は45歳男性。会社の検診で血尿を指摘されていたが放置。家系内には、糖尿病患者や透析患者がいる。最近になってインターネットで遺伝性の糖尿病や腎臓病があると知り、心配になり保健所の相談窓口を訪ねた。

視聴時間

21分26秒

この事例の学びの目標

・医療受診につながる家族歴聴取のポイントや留意点を理解できる。

更新日:2025/3/1 担当者:浦野真理 青木美紀子 酒井規夫
事例5.先天代謝異常症の女性が、結婚を控え遺伝カウンセリングに来院した場面

事例は29歳女性。中学校の英語教師。新生児マススクリーニングでフェニルケトン尿症が判明し、食事療法で良好に管理してきた。結婚を控え、小児期からの主治医に相談し、遺伝カウンセリング室を紹介された。

視聴時間

46分09秒

この事例の学びの目標

・常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)疾患の家系図聴取のポイントと、妊娠・出産を控えている女性患者への対応の留意点を理解できる。

更新日:2025/3/1 担当者:玉置知子 中込さと子 村上裕美 酒井規夫
事例6.大学生が家族の疾患の相談に学生保健室に来談した場面:X連鎖性遺伝性疾患の場合

事例:22歳の大学3年生の女性。将来について考えている頃、姉の8歳の息子がファブリー病と診断された。姉は、ファブリー病が自分の血縁者に関わると聞いたため私に連絡してきた。姉の話では状況がつかめないので、通い慣れた学校保健室の看護師に相談してみようと考えた。

視聴時間

46分39秒

この事例の学びの目標

・X連鎖性遺伝性疾患の家系図の聴取のポイントと、ヘミ接合、ヘテロ接合の女性の状況、X染色体の不活化について学ぶ。(加えて、家族に関わる遺伝性疾患が1つとは限らないことも理解する。)

更新日: 2025/3/1
担当者:玉置知子 酒井規夫 中込さと子 村上裕美
用語指導:徳富智明先生(川崎医科大学 小児科)

作成者:

日本遺伝カウンセリング学会遺伝看護委員会(2021年4月~2025年3月)
中込さと子(信州大学)、村上裕美(京都大学医学部附属病院)、青木美紀子(聖路加国際大学)、佐々木規子(長崎大学)、浦野真理(国立国際医療研究センター病院)、佐藤智佳(関西医科大学)、柊中智恵子(熊本大学)、御手洗幸子(NTT東日本病院)、酒井規夫(大阪大学・医誠会国際総合病院)玉置知子(兵庫医科大学・高槻病院)、渡邉淳(金沢大学医学部附属病院)、川目裕(東京慈恵会医科大学)

ロールプレイ録画にご協力いただいた皆様(プログラム順)
島田咲様(関西医科大学附属病院 臨床遺伝センター)、小川昌宣様(京都大学医学部附属病院 遺伝子診療部)、古賀和様(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)、村越誉様(愛仁会千船病院 産婦人科)、服部有香様・大隅敬太様(愛仁会高槻病院 小児科)

参考テキスト:

遺伝看護学(羊土社):中込さと子,西垣昌和,渡邉淳(監修)
遺伝/ゲノム看護 (医歯薬出版):有森直子,溝口満子(編集),井ノ上逸郎(監修)
遺伝医学・ゲノム医学はじめに読む本(メディカル・サイエンス・インターナショナル:渡邉淳)

2025/3/1